
20年位前からお世話になっていた服屋さんがあった。いつも接客してくれた店員さんは物腰が柔らかく、洋服に関する知識も豊富でとてもおしゃれ。夫婦でお世話になっていて(何ならジェイドも相手をしてもらっていた)憧れの方だった。

ジャケットの袖、パンツの裾などのお直しをしてもらう際に、さっと胸元からティファニーのボールペンが出てきて、お直し表にすらすらと寸法を書かれているのを見るのが好きだった。
いつかボールペンがロトリングになっていてお聞きしたら「どっかいっちゃって」とさらっと言われた。「無くしたと思ってもこのボールペンは必ずどこからか出てくるんですよ」とおっしゃっていて、確かに数年後、胸元の定位置に戻ってきていた。これが「縁」というものなのだろうか。

そんな話もあってこのティファニーのボールペンは私の憧れだった。数年前に凹み傷がついているからという理由で、とても安くなっていたのをネットで見つけてすぐに購入した。
このボールペンは見た目は良いのだが、重いし重心もペン尻にあり実はあまり使い勝手は良くない。ようやく私の手に馴染んできた頃に、その店員さんは次のステップに進まれ、なかなかお会いすることもなくなってしまった。

しばらく使わないとすぐにボディが黒ずんでしまうボールペンを磨きながら、今、彼がどうしていらっしゃるのかを考える時がある。あの、ねっとりしたインクと角ばった筆圧の強い癖字、そして柔らかい話し方が懐かしい。
そうそう、備忘録として。このボールペンはParkerの替芯が使えるという親切設計である。
