句読点ミュージック│Early – July

その日の気持ちに区切りをつける「句読点ミュージック」を選んで紹介。

19:9m88 —— 台北の雨影に滲む、静謐なネオソウルの手触り

9m88(ジョウエムバーバー)は、台湾・台北出身のシンガーソングライター。

NYのThe New Schoolでジャズを修め、R&Bやネオソウル、オルタナティブなヒップホップの境界をシームレスに融解させるスタイルによって、アジアのインディペンデント・シーンで独自の立ち位置を築いている。

彼女の音楽の根底に流れるのは、アカデミックなジャズの素養と、ストリートのグルーヴを緻密に編み直した都市的なサウンドスケープだ。

「everything’s Gonna be Alright」の再生ボタンを押すと、モノクロームフィルムの粒子を思わせる微細な音のザラつきと、洗練されたコード進行が空間を満たす。

亜熱帯特有の湿気を帯びた台北の雨夜を想起させる、彼女のスモーキーなボーカル。その声帯の震えは、すべてが上手くいくと優しく心を解きほぐしてくれ、ニュートラルな状態へと引き戻していく。

タイトに刻まれるベースラインと、意図的に配置された音の余白を生かすミニマルなプロダクションは、聴き手に特定の感情を強要しない。削ぎ落とされた音の連なりが思考のノイズを静かに吸収し、日常における確実な「句読点」として機能している。

20:かせきさいだぁ ——日常の断片をサンプリングする、私小説的ヒップホップの残響

かせきさいだぁは、1990年代初頭から日本のインディペンデント・シーンにおいて特異な立ち位置を保持し続けるアーティストである。

静岡県に生まれ、デザインを学んだ背景を持つ彼は、オールドスクール・ヒップホップの構築手法に、日本のポップスや純文学のエッセンスを編み込むという独自のアプローチを確立した。

「さいだぁぶるーす」はダスティなレコードのノイズをまとったブレイクビーツが静かに立ち上がる。過去のソウル・ミュージックから抽出されたメロウなループの上を、街の情景を淡々と綴るポエトリーリーディングのようなフロウが滑っていく。

過度なメッセージ性や感情の起伏を削ぎ落とし、言葉の響きを音のピースとして配置する彼のプロダクションは、情報で飽和した視界の輪郭を和らげる。徹底してレイドバックしたそのサウンドスケープは、過熱した思考の温度を下げ、ニュートラルな余白を日常の中に静かに作り出している。

21:STUTS & PUNPEE —— 都市の夜明けをスウィングする、MPCの打鍵とメロウなざらつき

STUTSは1989年生まれのトラックメーカーであり、MPCプレイヤー。ヒップホップのルーツであるサンプリングカルチャーとブーンバップを基盤に据えつつ、ソウルやジャズの要素を抽出したオーガニックなビートメイクで知られている。

2016年のデビューアルバム『Pushin’』に収録された「夜を使い果たして feat. PUNPEE」は、彼のアナログな手触りを持つプロダクションが最も端的に表れた一曲だ。

楽曲の軸を担うのは、指先で物理的に叩き出されるMPC特有の微細な揺らぎ(スウィング)と、ダスティな質感を残したドラムブレイク。そこにノスタルジックなピアノのループと、PUNPEEのレイドバックした語り口のようなフロウが交差する。

夜の深まりから夜明けへと向かう都市の温度変化が、過度な装飾を削ぎ落としたソリッドなトーンで描かれている。精緻に構築されたビートと意図的な音の隙間は、情報で飽和した視界のピントをフラットな状態へと合わせ直す。

淡々と刻まれるキックとスネアの反復は、過熱した意識をクールダウンさせ、次の一歩を踏み出すための静かな「区切り」として存在している。

最新の「句読点ミュージック」プレイリスト

この記事を書いた人

妻と愛犬ジェイド(女の子)と暮らしています。 老眼鏡を新調したのを機に、積読していた本を少しずつ読み始めました。

派手な生活ではありませんが、犬と眼鏡と本と音楽とコーヒーあれば十分。そんな日々の断片を、記憶がわりに書き留めています。