
村上 春樹 (著)
最近、過去に読んだ本を忘れて読み返している。その度に同じ本は増えるが、感じることはいつも異なる。忘れるとはこういうことだ。
さて、忘失は喪失と何が異なるのか。今は辛いことを振り返ると痛みは消えているのだろうか。この本も素晴らしい話が収録されているが、最も余韻が残ったのは「めくらやなぎと眠る女」だった。
友人は主人公がいとこの男の子と対等に話をするところが良いという。私は何かが足りない二人がずれていても心が通い合っているところが好きだ。何かを諦めていて、でも今よりは良くなるんじゃないかという望み。そしてその代償への恐れ。小説とはいえ、この二人に少しでも良いことが起こり、そして平穏な毎日を送れていることを願う。

ーいとこはちょっと肩をすくめるような動作をして、また考えこんだ。「年なんてとりたくないんだよ」と彼は言った。「つまりこれから先、何度もいろんな種類の痛みを体験しなくちゃならないかと思うとさ」彼は左耳をわずかに僕の方に傾けてしゃべった。
