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64( 横山秀夫著/文春文庫)
目次
執念。この一言に尽きる。
登場人物のそれぞれの執念(事件への執念、前職への執念、今の仕事への執念、復讐の執念、悔恨の執念、家庭への執念、居場所への執念、自分であることへの執念)そして、筆者のなんとしても書ききるという執念。
前半は我慢だ。政治や駆け引きがあるが、それは主人公たちそれぞれの執念の強さの背景とぶつかりあいだ。残り1/3から物語は加速する。執念と確執が地方警察という団結力と地元意識の強さ(物語の中心はノンキャリアだから)により、絆が64事件を追い詰めていく。もうこうなるとページを止めることはできない。
少年漫画のように喧嘩をして仲良くなることはないが、それぞれの職責が立場を超えつながっていく。社内政治、本社と地方、追うものと追われるもの、追われたもの、見限ったもの、皆その人生の主人公たちなのだ。
人間を断罪にもちこむ異常なまでの固執
人間が人間を裁くのではなく、断罪にもちこむその異常なまでの固執は、読むものも硬直化させる。日本にまだこんな小説を書ける人が存在することに感謝するとともに、母国語でこの本を読める幸運に感謝する。おそらく今年一番良かった本になると思う。図書館で2年待ったかいがあった本だ。
病気、嫉妬、欲、裏切り、災害、老衰、死の7つの敵すべてを相手取り、堂々と渡り合う主人公の苦しみが文字を通じて直接的に感じるあまりに痛々しくもある。しかしそれを罰として受け入れ、今自分がやれることをやる口下手なプレイングマネージャーになりたいかと言われるとそれは無理だが、こんな男がいるのなら、その下で働いてみたいと思わせるまさにドラマであった