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二流小説家( デイヴィッド・ゴードン著、 青木千鶴(翻訳)/ハヤカワ・ミステリ文庫)
積み重ねてきた過去は裏切らない
この話はミステリーが主ではない。主人公の成長がたまたまミステリーという場に存在しただけで、別にスポ根ものであったり、宝探しの話でも良い。つまりは積み重ねてきた過去は本人の意図する、しないに関わらず、裏切らないという訓戒だ。
だからたとえそれがポルノ小説やSF、ヴァンパイアものであっても。小説家として二流であっても原題は、連載物作家なのだ。危うくはありながら形を変えて継続してきた事実は、本人も予想もつかない現実へ繋げる。
殺人でも小説でも連作されれば同じシリアル。殺人犯は現実で人を殺し、小説家は仮想の世界で人を殺す。殺人犯は被害者とその周りの人から生を奪い、小説家は現実から生き血をすするように話の種を奪っていく。
結局、70億のなかから20人位間引いても何も世界は変わらず、クソみたいな作品を幾つかいても棚に間違って置かれるだけ。手法と結果が違うだけで本質的には何も変わらないことを見ても見ないふりをしながら、それでも少ない人数ながら誰かに悪夢を見せる、夢の中にとどまらせる力は持っている。
振り返る時が来るまで人生はいつも中だるみ
全くの無駄であると本人が思っても、続くことには理由があり、それが殺人か小説かの違いでしかない。主人公も犯人も同じく超一流の二流。振り返れば重要だったターニングポイントも、その時点では流されているだけなのだ。
だからいつか振り返る時が来るまで人生はいつも中だるみ。ようは振り返る時がそれが死を目前にする時か、小説が結末を迎えた時かだけの違いで、終り皮肉にも人をを成長させる。成長しても終わるだけなのに。
裏側にあるのは、隠された人生の秘密
凄く内容はポジティブなのに、主人公がネガティブだったり、ありもしないモテ期や囚人からのラブレターなど二律背反を内包して物語は進む。
ありそうでないこと、なさそうであることがごちゃごちゃで、読み手のことを気遣いながら勝手に話を進めていく、そういう構成自体が、主人公の二流ぶりを際立たせて行く。
表面だけ見ればただの長い二流ミステリーだ。でもその裏側にあるのは、隠された人生の秘密だ。よほどカーネギーより思慮深い。
だけれども話が長いのだ。そこだけ差し引いて星4つ。読み返そうとは思わないけど、チープだったりデジャヴだったり、ストーリーインストーリーだったり、時間軸のずらしだったり、色々な手法を掛け合わせて、次の小説の形を作ろうとする著者の姿勢と形にした努力に拍手。