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解錠師(スティーヴ・ハミルトン 早川書房)
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唯一自分の意志で開けた鍵は恋人の心
この年のこのミス海外作品1位受賞作品。 アメリカなどでは技術レベルの高い錠前技術者は「ロックスミス(Locksmith)」と呼ばれ、マイスター(上級技能者)として高い社会的地位が与えられる。
それでは、なぜこの小説のタイトルは「解錠師(Lock Artist)」なのか。このスキルが社会的に認められなくても良いと考える人がいると考えると、この「鍵を開ける」という行為の芸術性に気づくかもしれない。文字にすると陳腐だが、この小説の主人公が唯一自分の意志で開けた扉は恋人の心である。
主人公が閉じた無防備な心の扉を勝手に開いていく友人や大人は、その解錠の腕前だけを認め、本当に開けたのは恋人のアメリアだけだった。しゃべることをやめた主人公と恋人をつなげるのは、芸術域まで高められたまるで絵物語のようだ。たった1年の間に起こった主人公の大きな人生の変化と、そして守るものができた行動は、彼の人生の新しい扉を開ける。今は鍵のかけられた塀の中の刑務所生活だけれども、その鍵は自分が開けるのではなく、時だけが解錠してくれる。
一度解錠された扉はシステムを変えない限り開いたままと同じだ。そして鍵だけ持っていてもそれに合うシステムがないとどうしようもない。その関係性がまたこの物語に登場する主人公たちの幼い愛の永遠性をロックする。ハードボイルドでもなく、ハーレクインでもない、純情を貫く若き青年の必死な恋の物語。